イタリアの工房と手縫い職人
革の文化が根付く国イタリア。フィレンツェの中心街から離れた静かな山の上に、アヤメアンティーコの手縫い専門工房があります。たくさんの動物たちが暮らすその古いレンガ造りの工房で、革の裁断や縫製、仕上げに至るまですべての工程を、ひとつひとつ手で行っています。群れる羊や広大な山脈を眼前に望み、煙突から立ち上る煙の香りが漂う穏やかな空間は、じっくりと時間をかけて作品を作り上げるのに適した環境です。イタリアの歴史や文化そのものが残るこの工房から、特別な手縫いの商品をお届けします。
イタリアでも珍しい手縫い専門職人、ステファノ。真面目で頑固な彼は、手縫いの仕事を始めてから40年以上、古道具と共にその手で仕事をしてきました。少年の頃から革製品の職人に憧れ、世界の技術を求めて欧米で修行した彼が出した答えは、機械の時代だからこそ、伝統の手縫いを守り続ける、ということでした。現在では故郷フィレンツェで、熟練を目指す若い職人たちに技術指導を行いながら、アヤメアンティーコの手縫い専属職人として製品を手がけています。大変長い時間と根気を必要とする仕事のため、少しずつしか作ることができませんが、完成時にはその工程を感じさせる暖かみのある作品が生まれます。
この工房には、ミシンが一台もありません。どんなに細かい部分も、大きく長い部分でも、ひとつずつ菱目打ちで穴を開け、手で縫っているからです。革の裁断でもプレス機を使わず、デザインナイフや自作の革包丁で丁寧に裁断していきます。道具がどんなに古くなっても手入れをして使うステファノですが、フィレンツェで毎週開かれる骨董市に出向いては違うものを仕入れてくるため、妙に道具が増えてアンティークショップのようになっています。誇らしげにその古い道具を手にしながら、少年のように目を輝かせる熟練職人。伝統を重んじるステファノの姿は、守り続けるべき歴史や文化の大切さを教えてくれます。
アヤメアンティーコの設立前、イタリアで手縫いの仕事をしていた時、「機械でやったみたいに綺麗」と言われた場合、半分は褒め言葉ですが、もう半分は少し残念、という場合がありました。手縫いの味がなくなったね、という意味が含まれているからです。まっすぐ正確に縫うことができる技術は必須ですが、そこからあえて手縫いの雰囲気を残してざっくり縫い上げることで、イタリア人が好む味のある製品になります。ステファノの作品も、丁寧に仕上げていますが、縫い目はミシンのような完璧な正確さを出していません。文化の違いを感じますが、イタリアに根付く味の感覚を共有するために、個性を生かした商品作りを行っています。
イタリアでじっくり時間をかけて生まれる手縫いのオリジナル製品を、今後少しずつ増やしていきます。すべての工程が手作りのため、限られた数量しか作ることができませんが、こうしている今も山の上の工房で、ステファノが手縫いをしています。アヤメアンティーコでは、革製品に対する職人の情熱や仕事に対する想い、そして受け継がれている伝統の技を大切にしています。イタリアと日本の革文化の架け橋として、これからも本物と呼べる製品を作り続けていきます。